自然とマインドフルネスの関係から探る「本質的な休み方」久賀谷 亮×山本貴義(前編) 2019.05.03 SUP・パドルボード 三浦・横須賀
海や川、山や森の大自然の中で、太陽と風を感じながらそとあそびすると、心地よい疲れとともに、心がひらいていくような感覚を感じることがよくあります。「SOTOASOBI(そとあそび)」ではそれを「リブート(reboot) =再起動」と捉え、「そとあそび」が提供する価値の根源と考えています。
ストレス社会を生きる現代人は、アウトドア・アクティビティに何を求めているのか、また、人の心は自然に触れることで何を得られるのでしょうか?
医学博士でありマインドフルネス(※)についての著書を多数執筆している久賀谷 亮氏と、アクティビティ予約サイト「そとあそび」を運営する”外遊びのプロ”で、そとあそび研究家の山本 貴義が、自然の中で遊ぶことの大切さを語り合います。
久賀谷 亮 氏 / Akira Kugaya
医師(日・米医師免許)/ 医学博士
イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。そのほか、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医など。2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。同院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。著書に『無理なくやせる“脳科学ダイエット』『世界のエリートがやっている 最高の休息法』『脳から身体を治す 世界のエリートは知っている最高の健康法』など。
山本 貴義/Takayoshi Yamamoto
「SOTOASOBI そとあそび」創設者 / そとあそび研究家
アメリカ・ワイオミング州にあるグランドティトン国立公園の大自然に感銘を受けたのをきっかけに、2004年7月、アクティビティ予約サイト「そとあそび」を創設。2019年5月現在、2000以上ものアクティビティ・ツアーを紹介するサイトへと成長させる。年間100日は、アウトドア・アクティビティの取材のために日本各地を旅している。幼少期から現在まで、記憶に残る思い出は「外遊び」ばかり。自身もラフティングガイドや乗馬トレッキングガイドを経験した。取材ではガイドが大切にしている価値観を洗い出したうえで、事業アドバイスやサポートも行っている。
三浦の海で体験した「心がひらいていく」時間
ーー今日は「なぜ、人は自然に触れると、心も身体もリラックスするのか?」をお二人に一緒に考えていただくために、対談に先立ってここ三浦海岸でSUPとカヤックを体験していただきました。まずはその感想からお聞かせください。いかがでしたか?
久賀谷
実は、今日一番印象的だったのは、波が穏やかな湾でカヤックをぶらぶらと漕いだことです。実は、最初海の状態が結構厳しかったので、どんどん遅れてしまうと思い、追いつかなきゃいけないと必死だったんです。ほんと、皆さん待ってくれないよね(笑)。
ーーみんな自分のことで精一杯で、振り向く余裕がなかったですね。
久賀谷
その時思ったのが、これって現代人の縮図みたいだなって。基本的にはみんな競争してて、一生懸命追いつこうとしている。今日の海でも同じような感覚を覚えました。
ーーおっしゃるとおり、前半は一緒になって楽しもうという感じではなかったですね。
山本
目的地にきちんとたどり着かなきゃいけないというプレッシャーがあったのかも。そして前半はみんな、お互いに気を遣い合ってましたね。
久賀谷
後半、湾の中をカヤックでぶらぶらと漕いでいたときには、それがなかったんですよね。あれがすごく心地よかった。多分、子ども時代の遊ぶっていうのはああいうものなんだろうなって。毎日シナリオはない。でも野原にみんなで集まって「何かしよう」ってなる。その感覚に近いものを感じました。
山本
後半はそれぞれの楽しみ方を各々探している状態でしたね。何をやっても良かったし。取材ということもあり、今日はスケジュールが組まれていましたが、本来、自然体験はゴールがなくていいんですよ。天候によって目標が変わったりしますし。
ーーでは、ふだんから外遊びをしている山本さんは、今日のアクティビティ、いかがでしたか?
山本
「やっぱり心がひらくな」と思いましたね。年間、それこそ100回くらい、自然の中でアクティビティを開催している事業者様を訪れるのですが、毎回この心がひらいていく感覚があります。そうなると、もう今日はどうやって楽しんでやろうかと考えてしまうんですよ。それが取材でも、合間の時間にいかにして楽しんでやろうかと考えちゃいます(笑)。
久賀谷
山本さんは楽しみ方を熟知されているんでしょうね。まだ楽しみ方を知らない人っていうのも多いんですよね。
山本
そうですね。自然体験を趣味にしている人は、それこそ楽しみ方を知っていると思いますが、行ったことのない人や、幼少期に体験してこなかった人にとって、いきなり自然を楽しむのは難しいかもしれません。
久賀谷
そういう方々も楽しめるコツを教えてらっしゃるんですよね。
山本
自然というのは当たり前にあるものです。人間だってそこから出てきてた。ということは、自然とは、「行く場所」ではなくて「帰る場所」なんです。だから自然に入って心が開放されたり生きる実感がわいたりするのは、ごく自然なことだと思います。そういった「心地よい瞬間」にみんながもっと気づいてくれればいいなと考えています。
なぜ、人は太陽や風に癒やされるのか
ーー外に出て自然に触れるというのは、私たちにどういった影響をもたらすのでしょうか。
山本
自然の中にいる時って、些末なことがどうでもよくなってくるというか、一瞬にして子ども心に戻れて、普段の自分になれるんです。頭と心がリラックスしている状態って、やはりアウトドアの空間にいる時だと思っていて。
久賀谷
昔から言われていることですが、「自然は心の健康にいい」っていうのはどうやら本当のことで、それがようやく、根拠の後ろ盾ができたというのが現代だと思うんですよね。
山本
そうですね。自然に入った瞬間、自分の心がひらいたり、頭がひらいたりする感覚があるんですが、それは自然に帰るという感じでして…。家に帰るリラックス感覚と一緒ではないかと。
久賀谷
自然に帰るという話にもつながると思うんですが、なぜ人は、いわゆる原始体験や原始風景といった自然に癒やされるのだろうと、色々と考えていたんですよ。今日ガイドの方が「自然にはすべてがある」とおっしゃっていたのも印象に残っています。
ーー自然は情報量が多いともおっしゃっていましたね。
久賀谷
その話にハッとしました。なるほど、文明社会はすごく豊かになっているかもしれないが、実はすべてがあるのはむしろ自然の方なんだなと。ということはですね、自然は母体なんじゃないかと。幼い子どもが母親に触れられると癒やされるように、自然に触れると癒やされるんです。
また、自然は不完全だからこそ完全なんですよ。たとえば、天候もコロコロと変わるじゃないですか。われわれはそうした不完全さに接することでも、すごく癒されるんですよね。
自然とマインドフルネスの関係とは?
久賀谷
マインドフルネスの話につなげますが、マインドフルネスって自分の人間としてのいい状態が出ちゃうということなんです。それは母親という絶対的な安心感があった時に出やすいです。だから、母なる自然に触れると、みんなすごくいい顔をするわけです。それこそ都会では見られないような、すてきな表情をするんですね。つまり自然には「心がひらく」状態を引き出す力があるわけです。マインドフルネスと自然の相性がいいのはそういったところですね。自然が、内面の良いものが出してくれたり、何かをとっぱらった状態をもたらしたりしてくれるんです。
山本
私も自然の中にいる時は、より自分らしさが出ると思います。たとえば山に入ると、街では挨拶しない人でも挨拶するじゃないですか。それに山の中でイライラしてる人を見たことがない(笑)。つまり自然の中にいると、本来その人が持っている良い面が出やすくなるんじゃないかと。そういったものが出るのだから心地いいのは当たり前ですよね。今の話はそこにつながると思いました。
久賀谷
山本さんはすごくいい人間ですよね。山本さんを見ていると、自然児みたいな人間の本来の姿なんだなと思います。それは普段から自然の中にいるからなのでしょうね。
山本
本来の姿に戻ろうとしてるのかもしれません(笑)
久賀谷
ただ、誰もが山本さんのようにはなれない。パタゴニアに行ったときの話なんですが、あんな豊かな自然がある中で、レストラン内で腹を立てている人がいたんですよ。自分の順番が遅いとか、好きな席に座れないとか、そういう理由なんです。恐らく旅行のスケジュールが乱されて怒っているのでしょう。現代人は、そういう素晴らしいスポットに行っても通常モードが外せない。リラックスさせるために来ているのに何で怒ってるの?となってしまうんですよ。
山本
そうですよね。
久賀谷
自然や旅というのは、とかく予測不能なもの。一方で普段の生活はスケジューリングしたりプランニングしたりして、ガチガチに枠をはめてるじゃないですか。私たちはそういうものに慣れきっている。それをそのまま旅行先に持っていくからスケジュール通りにいかないとイライラするんですね。
山本
アウトドアでは、せっかくスケジュールを立てても、そんなにうまくいくわけではないんですけどね。
久賀谷
私たちは先が見えないものがすごく怖いし、恐怖心に勝てない。だからスケジュールとかでガチガチに固めてしまうのだと思います。でも、旅に行くとそれが通用しなくなる。そういう機会に触れることって必要なんじゃないかな。
山本
先程のパタゴニアの話ですが、もしかすると自然を隔てるレストランというシチュエーションが原因の一つになったのかもしれません。自然が素晴らしいパタゴニアならではのコントロールできない環境下に身を置いていたらきっと、その人もスケジュールなんて一瞬にして忘れてしまったんじゃないかな。
久賀谷
自然の中なら、一瞬にして忘れてしまいますよね。
山本
今日も海に入るまでは仕事モードだったので、リラックスしようと一生懸命になってたんですね。でもいざ海に出ると頭の中のことが全部吹き飛んでしまう。考えようとすればするほど「さっき何を考えてたんだろう」ってなりますね(笑)
ーーたしかに思い出せないですよね(笑)
久賀谷
今朝、来るときも「早く海を見たい」とおっしゃってましたね。でも山本さんは、3日に1回くらいは海に入ってるんでしょう? にも関わらず海が見たくてたまらないんですね。だからすごく純粋で自然児だなって思うんですよ。意識しなくても必要なところに座標軸(リラックスした状態)がある人なんだなって、すごい羨ましいですね。実際、現代人には、なかなか難しいことですね。
山本
(自然の良さを)知れば、誰もができると思っています。何か特別な技術というより、やはり「知ること」が重要だと思いますし、そんな難しくはないと思っています。
マインドフルネスとは、今目の前で起きていることに意識を向ける心理的な状態やプロセスのこと。雑念などが取り払われて心がリラックスできたり、集中力が高まると言われている。マインドフルネスは、一般的に瞑想などを通じて行われる。医学博士 久賀谷 亮 氏は、脳科学的な根拠に基づいた「脳の休め方」=「マインドフルネス」を著書で説いています。
ーー後編につづく
(編集部注*2019年4月21日にAkatsuki VOICEで公開された記事を再編集したものです)
SOTOASOBI(そとあそび)
SOTOASOBI KIDS そとあそびキッズ
山本貴義 twitter @sotoasobi_yama
映像:RAW 構成・インタビュー:鶴岡 優子
撮影協力:OSYC 俺たちの湘南ヨットクラブ
※掲載されている情報は公開日のもので、最新の情報とは限りません。
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