枠から飛び出して「勇気のテスト」をしたほうがいい理由 久賀谷 亮×山本貴義(後編) 2019.05.04 SUP・パドルボード 三浦・横須賀
海や川、山や森の大自然の中で、太陽と風を感じながらそとあそびすると、心地よい疲れとともに、心がひらいていくような感覚を感じることがよくあります。「SOTOASOBI(そとあそび)」ではそれを「リブート(reboot) =再起動」と捉え、「そとあそび」が提供する価値の根源と考えています。
ストレス社会を生きる現代人は、アウトドア・アクティビティに何を求めているのか、また、人の心は自然に触れることで何を得られるのでしょうか?
医学博士でありマインドフルネス(※)についての著書を多数執筆している久賀谷 亮氏と、アクティビティ予約サイト「そとあそび」を運営する”外遊びのプロ”で、そとあそび研究家の山本 貴義が、自然の中で遊ぶことの大切さを語り合います。(前編はこちら)
頭を酷使している現代人の「休み方」とは
ーー引き続き、アウトドアアクティビティが持つ力についてお聞きします。
久賀谷
ひとつだけ触れておきたいのが、現代人というのは忙しいです。だから週5日働いたら、週末は何もしたくないから寝ている。それが「正しい休み方」なのかという話です。
山本
たしかに、現代人の疲れって、体を酷使したというよりは、頭を酷使したことが原因だと思うんですよね。頭を酷使した疲れが、体だけ休めて回復するのかというと疑問です。家で寝ていても頭は動いている状態なので疲れが溜まるばかりだと思うんですよ。
ーー寝ているだけでは回復しないということでしょうか。
山本
ええ。だから心がすり減っている状態であれば、むしろ外に出て、自然を満喫することが回復につながることも多いと僕は思うんですよね。外で頭をリラックスさせてあげれば、リセットできて再起動できる。「無理やり外に連れ出されたけど結果的には心が良い状態になった」みたいな話をよく聞きますが、たぶんそういうことだろうと思っています。
ーーなるほど、自然の中で体を動かした方が回復するのだけど、現代人はそれがなかなかできないということですね。
山本
気づいてないだけかもしれません。僕も、たまたま自然に出たら心地よくて、外遊びを続けているので。
久賀谷
フィットネストレーニングの専門家の方に聞いたのですが、彼らはアスリートなんですね。そういった方々は日々トレーニングしているわけですから疲れは溜まりますよね。だけど意外と筋肉は疲労していないのだそうです。ですから休みの日は何もしないよりも、通常の有酸素運動より軽めのメニューで筋肉を動かすんです。アクティブレストというのですが、血の巡りがよくなって回復も早い。この筋肉の話は、脳にも通じると思うんです。週5働いたから休日はただただ寝てるではなく、むしろ体を動かした方が頭は休める。現代人はそれが分かってないのかもしれないですよね。働き方改革っていっているけど、休み方を知らない人が多いのだと思います。
ーー休んでも疲れがとれないという人は多いですね。
久賀谷
現代人の9割は疲れてますよ。それは休みの日の過ごし方ですら「こうあるべきだ!」ってガチガチになっちゃってるから。だからこそ山本さんみたいな遊びのプロが必要なんですよ。
不安と戦わず、不安を認めることが大事
ーー仕事中、頭を休ませようと思って他のことをしても、結局そちらに気を取られて、脳を落ち着かせられないなっていうことがよくあります。そんな時、瞑想すると雑念が消えて呼吸に集中できるような気がします。
山本
それは自然のリズムに近いかもしれませんね。呼吸を意識するというのはすごく分かりやすいです。SUPを漕ぐのも呼吸を意識してやるとスムーズにできるので。
ーーアカツキでも、瞑想を習慣にしている人もいます。たとえば、起床時、まず一旦休憩して瞑想してちゃんと気持ちを高めてから会社に来ている方も。朝は機嫌が悪いということをまず認めることが大事だと言ってました。
久賀谷
確かにそれはありますね。今日、SUPをやっていたとき、波が荒いところがあったんです。そのとき女性インスントラクターさんに「こんなに波が荒いときはどうやってバランスを取るんですか?」と聞いたら足で波を感じるんですって。
ーー波のありのままを感じるのですね。
久賀谷
マインドフルネスでは、朝機嫌が悪いっていうのを“波”に例えることがあるんですね。あれは真っ向から取り払おうとしてはダメなんです。つまり波と正面衝突するようなことをしても絶対にうまくいかない。戦うのではなく、それを認めることがまず大事なんですね。
ーー不安な状態が長く続くと、どうしても戻ろう戻ろうとします。そうではなく放っておくのが一番いいんですね。
久賀谷
その通りですね。不安を抱いたときの対処法は「ABC」とあって、最初のAはAccept(受け入れる)。取り払おうとして戦うのは逆効果です。
ーー年間100日を自然の中で過ごす山本さんにも、不安なときはありますか?
山本
もちろんありますよ。たとえば、会社にいる時、判断しなきゃいけないことがたくさんあると、それが不安になったりしますね。僕は、不安に気づいたらリセットするということを大事にしています。
自然の中でのリラックス状態を、日常でも感じ取る
ーーここまでのお話から、やはり自然にはリラックス効果があるのだと感じられますね。
山本
自然の中(非日常)にいると、集中しやすいというか、脳がリラックスしやすいので、心地よく感じるんじゃないかと思っているんです。
久賀谷
それは冒頭でお話した、私が思っているマインドフルネスと自然の相性がいい」という話につながりますね。
山本
一方で、アウトドアアクティビティは、リラックス状態になる一つのきっかけでしかないとも思っています。リラックス状態というのは、日常生活の中でも、それこそ歩いているだけで得られるんです。重要なのはそれを感じられるか感じられないかだと。たとえば、朝会社に行くときも、外の日差しを浴びると気持ちいいと思います。そうすると気分は高まりますよね。もし天気なんて気にせず会社に行ったら、僕の場合「仕事をしなくては」という気持ちに追われてしまい、気分が沈んでしまいます。
久賀谷
ここポイントですよ!
山本
窓を開けた時に風が入ってきた時の気持ちよさってあるじゃないですか。朝の太陽が目に入って、すっと他のものが抜けたりすることとかもありますよね。あの感覚を、もっとしっかり感じるべきだなと考えています。
ーー日常生活の限られた時間の中で、どうやったらそうなれるのかということですね。
山本
時間がない普段の生活でも、受け取る側のアンテナが強ければ、確かに感じられるんじゃないかと。風を感じたいとか太陽を感じたいって、みんな思っているはずなのに、そういう気持ちに無関心なだけなんじゃないかと。
久賀谷
山本さんのような次元にいくと日々が幸せだと思うんですよ。いろんなものがそう見えてくるだろうし、一瞬々々が楽しくなるでしょう。
山本
実は、それを意識できるようになったのは先生の本を読ませてもらって自覚したからなんです。呼吸を意識するって、自然の中であれば当然のようにできるんですが、それが都会でも可能なんだ、と。「感じる力」は、非日常の体験をすることで備わってくる、いえ、磨かれていくんじゃないかと考えてるようになりました。
ーーもっとそういったことに意識を集中したらいいのでしょうか。
山本
自分が心地いいことに気持ちを向ければいいのだと思います。ポッとは感じるけれども、脳ってそれを一瞬で忘れてしまうわけじゃないですか。だから、もっと感じ取れるようにしていくのが大切かと。
久賀谷
現代人は特にそうなのですが、人間は脳がだんだん大きくなってしまい、色々考えたり悩んだりする部分が増えてきちゃったんです。たとえば、京都に龍安寺っていうお寺があるんですが、ここは石庭が有名で、15個の石を同時に見ることはできないことで知られています。時折、修学旅行生がパッと入ってくるわけです。庭を見て最初は「キレイ」っていうんですけど、次の瞬間には、「15個全部見えるかな」とガイドブックの情報を気にしてしまう。
ーー目の前の風景を堪能しないんですね。
久賀谷
いわゆる理屈ですね。これは西田 幾多郎という哲学者が『善の研究』という本で書いています。最初の「あっキレイだな」っていうのを純粋経験というんですよ。まさに山本さんの生きている世界です。でも、色々な理屈が入ってくると、大脳が豊かだから理屈で考えちゃって純粋な気持ちが飛んでしまう。
ーー理屈に引っ張られてしまうんですね。
久賀谷
マインドフルネスとは、そもそも仏教が元になっているのですが、あるお坊さんがいうには、悟りという言葉は人間の善し悪しといった「差」を取り払うこと。それが「悟りの境地。要は最初の「キレイだなー」という純粋体験が理想なんです 。そうすると幸せに生きられますよと。
ーーそれで、山本さんのような人が幸せということなのですね。どうしたらそんな風に生きられるのでしょう。
久賀谷
「常に山にいる」とかでしょうかね。
山本
僕がそれを体現できているのは自然の中に生きているときです。やっぱり会社にいるときはマルチタスクの状態になっていて落ち着かないこともあります。ただ、ある程度コントロールできるとも思っています。
子どもと大人に伝えたい。本質的なあそび方、休み方
ーーでは最後に、お二人の今後についてお聞かせください。
山本
外で遊ぶことの良さを、大人はもちろん、子どもにももっと伝えていきたいです。昔と比べて子どもと自然が離れています。現代の子どもの多くは、日常ではなかなかそとあそびを体験できません。学校で教わることとは違う「自然の中で生きる力」や「自然の中で育まれる感受性」というものを多様な形で受け取ってほしい。それができる体験場面を増やしたくて、子どもの領域、そとあそびをもっと子どもに楽しんでもらえるサービスをつくりたいと考え、準備しています。
ーー久賀谷先生の今後についてもお聞かせください。
久賀谷
僕はマインドフルネスを旅という形で伝えたい。私たちの世界は、安全のための枠作りがそこかしこにある。生命保険もそうかもしれないし、スケジュールを入れるのもそうかもしれない。それは社会が安全じゃないから、ガチガチに枠を作って自分たちを守っているんです。逆にいうとその枠があるからこそストレスを抱いてしまう。その枠を外すだけでストレス解放になる。とはいえ、枠で守られている状況に慣れすぎているから、枠の外に出るとなると怖いんですよ。
ーー確かに守られているところから飛び出すのは勇気がいりますね。
久賀谷
本来人類はそういった原始的なところで生きてきたわけなんですね。だから、あえて枠から飛び出して“勇気のテスト”をしたほうがいいと考えます。それが「旅とマインドフルネスを一緒にした企画」です。できるだけ辺境の地で何も決めずにブラブラとする。または思わず「ハッと」してしまうような、とてつもない自然を見てもらったりします。あとは日常では経験できない“危険”をほんの少しだけ身近に感じてもらいたい。それによって、ひょっとしたら、凝り固まった頭がほぐれ、人生が変わるような経験を得られるかもしれません。そういったものを提供していきたいと考えています。
マインドフルネスとは、今目の前で起きていることに意識を向ける心理的な状態やプロセスのこと。雑念などが取り払われて心がリラックスできたり、集中力が高まると言われている。マインドフルネスは、一般的に瞑想などを通じて行われる。医学博士 久賀谷 亮 氏は、脳科学的な根拠に基づいた「脳の休め方」=「マインドフルネス」を著書で説いています。
(編集部注*2019年4月21日にAkatsuki VOICEで公開された記事を再編集したものです)
SOTOASOBI(そとあそび)
SOTOASOBI KIDS そとあそびキッズ
山本貴義 twitter @sotoasobi_yama
映像:RAW 構成・インタビュー:鶴岡 優子
撮影協力:OSYC 俺たちの湘南ヨットクラブ
※掲載されている情報は公開日のもので、最新の情報とは限りません。
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